2008年02月14日

産科医不足の問題点

■ 産科医不足が、周産期医療に及ぼす影響

 産科医不足は少子化以上に深刻な社会問題である。
地方の総合病院では、産科医不足の対策として院内助産院・助産師外来の導入が進められている。通常の正常なお産は助産師が、ハイリスクは産科医が受け持つ。数年後には、我国のお産は助産師による妊娠・分娩・新生児管理が主流になると思われる。院内助産院で異常事態が発生した時に、産科医が応援する。この方法は理想的な様にみえる。しかし、我国の社会問題である少子化対策・発達障害児の発生防止策にはならない。何故ならば、助産師の多くはお産の現場に予防医学(科学)を導入することに対して批判的であるからである。

助産師が理想とするお産:自然分娩と完全母乳哺育に代表される。
1.自然分娩:
    ・陣痛促進剤を使わない
    ・会陰切開をしない
    ・お産は痛いのが自然(産科麻酔に批判的)
2.新生児管理:
・WHO/ユニセフの『母乳育児を成功するための10カ条』を支持
    ■第4条:生後30分以内の「カンガルーケア」
    ■第6条:母乳以外の糖水・人口ミルクを飲ませない
(厚労省が1993年にWHO/ユニセフの10カ条を後援した)
 
 我国では、自然分娩と完全母乳哺育が安全で理想のお産・赤ちゃんに優しい新生児管理と思われているが、母児にとって不利益であるだけでなく少子化対策・発達障害児防止策にもならない。その理由は、自然だけで科学の無いところに安全な医療そして満足いく快適なお産は無いからである。また科学の無い医療現場に医師の卵は関心を示さず、産科医不足はエスカレートするばかりである。
 自然の短所を科学で補うのが安全で快適なお産となるが、自然(助産師)と科学(産科医)は融合せず競合しあっているのが現状である。医師が求めるのは科学的に実証された安全なお産、助産師が求めているのは会陰切開をしない、麻酔も無い痛いままのお産を理想に掲げ、それを自然分娩と解釈しているところに問題がある。
posted by タマちゃん at 19:49| Comment(1) | TrackBack(0) | 産科医の意見書

完全母乳哺育の問題点

■『母乳育児を成功するための10カ条』の問題点

 1993年、厚労省がWHO/UNICEFの「母乳育児を成功させるための10カ条」を後援したのを契機に、出生直後の新生児管理は様変わりした。我国の歴史的な「産湯」の習慣は無くなり、生後30分以内のカンガルーケアが当たり前となった。栄養面においても、乳母・もらい乳の慣習も消え、母乳以外の糖水・人工乳を与えない(完全)母乳栄養法が赤ちゃんに優しいと考えられる様になった。ところが、出生直後のカンガルーケアと母乳が満足に出ない生後0〜3日間の完全母乳栄養法は、低体温・低血糖・重症黄疸などの合併症を増やし児に不利益である事が分かってきた。

 厚労省は母乳哺育の普及を推進しているが、出生直後の新生児にとって大事なことは母乳か人工乳かではなく、低体温やカロリー不足はないか、先ず赤ちゃんの健康状態に目を向けるべきである。医学の進歩によって低出生体重児が元気に育つ様になった理由は、出生直後の低体温と低栄養の防止に万全の注意が払われたからである。しかし、厚労省の新しい授乳・離乳の支援ガイド(2007年)には、正常成熟児が新生児早期に低体温・低血糖・重症黄疸に陥らない様にするための医学的な配慮(予防医学)が見られない。ところで、WHO・ユニセフ(1989年3月)は「母乳育児を成功させるための10カ条」を長期にわたって尊守し、実践する産科施設を「赤ちゃんに優しい病院」として認定した。「赤ちゃんに優しい病院」のメリット・デメリットについて考えてみた。
 
1.「赤ちゃんに優しい病院」のメリット・デメリット
○メリットは病院側に
(1)「赤ちゃんに優しい病院」の認定書がもらえる・・・病院の宣伝効果は大である
(2)テレビ・新聞・育児雑誌・助産師・日本母乳の会などの学会が、病院の宣伝をしてくれる
(3)母乳育児を成功させるための10カ条を積極的に行う施設に助産師が集中する。
(4)重症黄疸などの増加によって、新生児の入院・治療費(診療報酬)が増える
(5)病院側にメリットはあってもデ・メリットは無い
○デメリットは赤ちゃんに
(1)生後30分以内のカンガルーケア⇒低体温⇒低血糖
(2)完全母乳哺育⇒低血糖・重症黄疸・頭蓋内出血の発生頻度を増す
問題点:動物において、低血糖・低栄養・重症黄疸は小脳の神経細胞の発育を妨げることが報告されており、ヒトにおいても特に生後1週間以内の低栄養は発達障害の危険因子として注意すべきであると報告されている

■カンガルーケアの問題点
 長野県立こども病院総合周産期母子センター長の中村友彦医師は、「正常産児の生後早期の母児接触(通称カンガルーケア)の留意点」と題して、2007年1月1日発行の日産婦医会報に次の様な問題提起をした。
 要旨:日本のほとんどの産科施設において、正常産児のカンガルーケアが生後30分以内に行われている。ところがカンガルーケア中に、赤ちゃんが全身蒼白、筋緊張低下、徐脈(心拍数が異常に遅くなる事)、全身硬直性ケイレン、という非常に危険な状態でNICUに緊急入院するケースがあり、他の施設でもこれと似た症例があると報告している。
 カンガルーケアの問題点:正常産児の生後早期のカンガルーケアに関する文献では、その安全性については議論されていない。日本では正常分娩の分娩室での母子ケアについては、科学的根拠に基ずく標準的な方法が無い。生後早期のカンガルーケアについて様々な側面から検討する事が必要だ。つまり、「母乳育児を成功させるための10ヵ条」の第4条、「母親が分娩後、30分以内に母乳を飲ませられるように援助をすること」の安全性を検証すべき、と報告している。(中村医師が報告したカンガルーケア中の全身蒼白、筋緊張低下、徐脈、全身硬直性ケイレンの危険な症状は、低体温と低血糖が原因と考えられる・・・久保田)

■症候性低血糖を来たした完全母乳栄養児の1例
 要旨:完全母乳栄養管理は新生児期に低血糖を来たしやすいことが知られており,母乳栄養を安全に実施するためには周産期に異常を伴った児に加えて,明白な危険因子を伴わない児においても,充分な哺乳量が確保されるまでは低血糖に留意した観察が必要である.日本小児科学会雑誌110巻6号 789〜793(2006年)

2.「母乳育児を成功させるための10カ条」の問題点・・・産科開業医の悩み
 病院側のメリットはあるが、赤ちゃんのデメリットを知って第4条と第6条を実行するのは産科医(科学者)として抵抗がある。産科開業医の悩みは、@第4条と第6条に批判的な産科施設に助産師は就職しない。A助産師が集まらない産科開業医では保健所の立ち入り検査を嫌気して廃業を考えている産科医が増えつつある。私もその一人である。B医師として、赤ちゃんを犠牲にしてまで「母乳育児を成功させるための10カ条」を実行したくない。C助産師を確保する目的のために、赤ちゃんへのデメリットを知りながら厚生省が勧める「母乳育児を成功させるための10カ条」を取り入れるべきかどうか、産科開業医の悩みを厚生労働省・保健所は全く理解していない。D厚労省は第4条と第6条の安全性を検証しないで「母乳育児を成功させるための10カ条」を後援した所に問題がある。

3.人工ミルクは乳幼児突然死症候群(SIDS)の危険因子と発表した
(1)人工乳は赤ちゃんに危険(SIDSの危険因子)であるかの様な印象を国民に刷り込んだ
(2)上記の刷り込みによって、妊産婦は第6条にこだわる様になった
(3)米国では、人工乳はSIDSの危険因子にない
(4)米国では、「着せすぎ・温めすぎ」に注意、と再警告がなされているにもかかわらず、日本では「着せすぎ・温めすぎ」をSIDSの危険因子に認定する動きが無い


■WHO/ユニセフの「母乳育児を成功させるための10カ条」について WHOは「母乳育児を成功させるための10カ条」の推進にあたって、各国の文化・実情に合わせることを求めているにもかかわらず、日本では第4条・第6条が児にとって安全であるかどうかの検証がなされていない。
 
 日本では、分娩室の室温は大人に快適な温度(24~26℃)に調節されている。そのため、寒い部屋で第4条を実行すると赤ちゃんは低体温⇔低血糖に陥り易い。環境温度が高く冷房設備が整っていない国では、赤ちゃんは低体温になりにくい。しかし、空調設備が整った日本の分娩室では、生後30分以内のカンガルーケアは児に不利益である。何故ならば、低体温が進むと低血糖になり易いだけでなく、消化管血流量が減り哺乳障害(初期嘔吐)の原因となるからである。
 母乳がいつから出始めるか、その分泌量の多少は人種や社会環境によっても影響される。我国の初産婦の母乳分泌量は出生0日では滲む程度で、カロリー源としてはゼロに等しい。熱産生のために最もカロリーを必要とする出生0日に、保温もしないで出ない母乳を吸わせるだけの第6条は低血糖症に陥る危険性を増し児にとって不利益である。低血糖の危険因子である高インシュリン血症で生まれる赤ちゃんは、妊娠糖尿病だけでなく正常妊婦から生まれる新生児に予想以上に多い事が分かった。厚労省は、発達障害児を防ぐために「母乳育児を成功させるための10カ条」の安全性を検証した後で、日本に適した母乳推進運動をスタートするべきである。その安全性が確認されるまでは、「母乳育児を成功させるための10カ条」の積極的な推進運動は控えるべきである。
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第21回鹿児島県母性衛生学会特別講演

テーマ:環境温度が赤ちゃんの体温調節機構に及ぼす影響

1.生後30分以内のカンガルーケアの問題点
2.乳幼児突然死症候群(SIDS)の原因と予防法

日時:平成20年8月23日(土)午後4時
場所:鹿児島県医師会館
電話:099-275-5423
対象:助産師、看護師、保健師、医師、栄養士
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福岡市こども病院の人工島移転について

産婦人科開業医の立場から、こども病院人工島移転についての意見を述べさせていただきます。
 
 こども病院は病気を患った子供達のための病院です。にもかかわらず、子供の都合ではなく一部の大人の都合でその移転場所が人工島に決まろうとしています。人工島移転の問題を考える時、こども病院の医師団・周産期医療に携わる産科開業医など、母児の生命を守る立場にある医師側からの意見が余りにも少ない印象を受けます。病気で苦しむ子供や親御さんにとって、24時間体制で治療に当たる医師団や産科開業医にとって、こども病院の人工島移転は現在地に比べ不利益な面が多過ぎます。人工島移転の一番の問題点は交通の便が悪すぎる事、巨額の費用がかかることです。さらに、現在のこども病院の医療レベルを維持し、新たに周産期医療を目玉にするのであれば、医療スタッフは新病院の近くに移り住むための引越しを余儀なくされます。何故ならば、大人の病気と違って周産期医療は予期せぬ非常事態が多く、緊急を要する病気がほとんどだからです。奈良県のたらい回し事件の様に、妊娠中・分娩中の予測不可能な緊急事態に対する対応は、治療開始までの時間が生死の決め手となります。例えば、妊娠中の胎盤早期剥離や分娩時の胎児仮死の治療が遅れた場合、赤ちゃんの命は助かっても脳に障害を遺す危険性が高いからです。これらは稀な病気ではなく、いつでも起こり得る日常茶飯事の病気なのです。福岡市でも産科医が減りお産難民が予想される今、周産期医療の拠点は交通便の悪い人工島ではなく、誰もが短時間に集合し易い市の中心部にあるのが理想です。病気で苦しむ子供、こどもの回復を必死に願う親御さんの気持ち、そして将来、産科医が極端に少なくなった時のことを考えれば、こども病院は市の中央にあるのがベストと考えます。

福岡市における産科医不足の問題点
 分娩施設を備えた立派なこども病院が出来たとしても、そこで働く産科専門医をどの様にして確保するのか、産科医不足は新病院の建築以上に重大な社会的問題です。ガンや不妊症を専門とする婦人科医は育っても、お産を専門とする産科医の確保は難しいと思われるからです。現在、福岡市の出生数約11,000人の中、6〜7割(約7000人)の赤ちゃんが開業医で生まれています。しかし、5年〜10年後には分娩可能な産科開業医は現在の半分以下、つまり約3000人がお産難民になる可能性があります。すでに福岡市でも院内助産院・助産師外来が増えつつあるのは産科医不足の影響です。産科医不足は今後急速に進み、分娩時の医療事故・障害児の増加など、間違いなく医療レベルの低下へと発展します。福岡市はこども病院の移転を考える前に市の周産期医療の実態(発達障害児の著しい増加)を詳しく調査し、産科医不足対策を早急に立ち上げるべきです。福岡市の調べでは、発達障害児の年次推移は、H1年33人、H5年50人、H10年182人、H15年218人、H18年248人、この18年間で発達障害児は信じられない速さ(約7〜8倍)で増加しています。H18年では、発達障害児とその他の障害児を合わせると年間600〜700人、このままでは2〜3年後には年間800人の障害児、つまり福岡市で生まれる子供の12〜13人にひとりが障害児と診断されることになります。
 産科医不足は子供病院の産科医の確保を難しくするだけでなく、発達障害児の発生をさらに増やすのが問題です。市は産科医不足を解消し発達障害児の増加に歯止めをかけるにはどうすればよいのか、直ちに調査研究班を立ち上げ発達障害児を未然に防止しなければなりません。産科専門医は大学を卒業してから最低でも10年の臨床研修が必要です。市は産科医を増やすための予算を確保し、そのために無駄な出費を抑えなければなりません。福岡市はこども病院の人工島移転に積極的ですが、市民にとって最も大事なことは周産期医療の根本的な建て直し、産科専門医の育成に努めることが最優先事項と思います。子供病院の移転は、産科医不足・発達障害児の増加に歯止めがかかってからでも遅くないと思います。こども病院の新築移転問題はいったん白紙に戻し、福岡市は日本一、安全・安心・快適なお産が出来る都市づくりを目指して、より健康なこどもが育っていく環境をつくるべきと考えます。
 
平成19年10月11日
久保田産婦人科麻酔科医院
久保田史郎
福岡市中央区平尾2−12−18
posted by タマちゃん at 11:34| Comment(6) | TrackBack(0) | 産科医の意見書

ブログ始めました

ブログを始めました。
お産のことや趣味のことについてざっくばらんにお話します。
posted by タマちゃん at 11:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記